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2007年9月

小説 「忘れ物にはご用心!」

「忘れ物にはご用心!」   とうの よりこ

 友人の瑞希から、「八ヶ岳のお土産があるよ」とメールが届いた。
 9月の三連休を利用して、瑞希は八ヶ岳へ旅行していた。とにかく暑さから逃れたい一心で、涼しいところへ出かけたのである。
 私は、モノと話の両方を期待して出かけた。
 瑞希との待ち合せは元町が多いのだが、この日は三宮のそごう1Fの商品券サロン前に1時半の約束にした。ちょうどゴルフスクールの日だったので、着替えて出かけると、そのくらいの時間になるからだ。
 「お昼食べた?」と瑞希が聞くので、「軽くね」と答えた。
 「じゃあ、お茶にしよっか」
 とはいうものの、三連休の日曜日だから、どこのカフェもいっぱいである。考えた末に、交通センタービルの2FにあるUCCカフェへ行ってみることにした。
 「ここがいっぱいなら、ほかのカフェは大抵いっぱいなのよ」とは、グルメ通の瑞希ならではの解説だ。幸い、席はあった。
 「やっぱり、UCCに来るとワッフルよね」と声をそろえ、二人して、「秋のおすすめ和風ワッフル」をオーダーした。栗と柿がそえられた、ちょっと甘めのワッフルである。

 お土産は「幸せを呼ぶ鳥 ルリビタキ」のチョコレート。中に入っている青いカードをデスクマットにはさんでおくと、結婚できるらしい。
 「これって年齢制限あるの?」 カードの解説を読みながら、瑞希に聞く。
 「ないんじゃない?」 瑞希も適当に答える。
 「ふーん、じゃあ、はさんでおこうかな」
 ちょうど、会社でデスクマットを使い始めていた。これまでデスクマットを使う機会もなく、使う気もなかった。使ってみての感想は・・・あっても無くてもどっちでもいい感じ。まだその利便性がよくわからない。もし、このカードで幸せになれたら、デスクマットは幸せを呼ぶカードをはさむために用意されたもの、ということになるけれど。

 「で、旅行はどうだった?」
 「寒かったし、お天気悪かったのよ」
 神戸は連日の猛暑だったから、うらやましいことである。
 「なんか面白いことあった?」 私は身を乗り出した。
 「面白いことねぇ・・・」 瑞希は頬杖をつきながら、考えた。
 「とんでもないことはあったよ。デジカメをなくしてさ~」
 「え?デジカメ?もどってきたの?」
 私の目が輝いたことを瑞希は見逃さない。じらすように「まあまあ、結果はお待ちなさいよ」と言った。
 「女3人で行ったんだけど、車中から写真はとってたの。観光して、お土産物屋さんに寄って、ホテルに着いたら、なくて。どこかで置き忘れたみたいなの」

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小説 「ドンペリと一輪のバラ」

「ドンペリと一輪のバラ」          とうのよりこ

 空にうかぶ白い雲が、ゆっくりと流れている。
 春の風が柔らかく、潮の香りをのせて、由布子の頬をかすめていく。
 この感じ、いつかどこかで感じたような・・・。

 由布子は不意に足をとめた。何かあたたかく大きなものに包まれていくような感覚。あれは、いつだったか、誰だったか。
 しかし、気を取り直して、また歩を進めた。今日は、クライアントのリゾートホテルとの大事な打合せがある。
 クライアントの営業部長から、新しい企画の広告を依頼したいと連絡があった。ほかに案件はいくつもかかえていたが、由布子は何をさておき、優先させた。このリゾートホテルは、由布子にとって、初めて契約にこぎつけた大事な顧客であるからだ。

 駐車場からホテルの正面玄関まで、何度も通った道。ベルボーイとは顔なじみである。軽く会釈をして、ロビーに入る。フロントで挨拶をし、営業部長への取次ぎを頼んだ。
 そう、いつもと同じ。何も変わらない。なのに、なぜだろう。少し胸がドキドキして、何か起こるような、そんな予感がする。

 由布子はエレベーターに乗り込み、事務所のある階のボタンを押した。すべるようにエレベーターは上がっていく。いつもなら、ぼんやりと外の光景に目を遣るのだが、今日は余裕がない。相変わらず、胸の鼓動が早い。
 応接室に通されて、営業部長を待った。おそらく1~2分待っただけだと思うのに、その間が異常に長く感じた。

 まもなく営業部長は、「やぁ、いつも突然ですまないね」と、現れた。彼の口癖である。
 そして、由布子の前に企画書を置いた。そこには、「ドンペリニヨンディナー」とタイトルがつけられていた。
 由布子は、思わず息を呑んだ。

 ドンペリニヨン・・・通称ドンペリ。シャンパンの王様。
 そして、由布子にとって特別な意味をもつ名前。

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