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小説 「突然バーン!」

「突然バーン!」   とうの よりこ

「右肩の調子はどう?すこしは痛み、なくなった?」
右肩を骨折した私を心配して、瑞希からメールが届いた。
「ゴルフにも行けず、ヒマなの。お茶しようよ」と返信した。

待ち合せは、諏訪山の「フーケ庵」に決めた。
ここなら徒歩で行けるし、人通りの多い三宮や元町だと疲れるだろうという瑞希の配慮からである。
瑞希は「和梨のタルト」とミルクティ、私は「キャラメル・ラフランス」とカフェオレをオーダーした。

「ごめんね、こっちまで来てもらって」
「いいよ。市バスに乗るだけだし。仕事は?疲れるでしょ」
「うん、まあね。コルセットに縛られてるから」
服の隙間から、肩に装着したコルセットを見せた。
「あ、そういうの、着けてるんだ。へぇー」
「姿勢よくなりそうでしょ」
「ほんと。自分で着けられるの?」
「まさか。右手はまだ後ろにまわらないから、母に着けてもらってる。『介護保険料払ってる老人に介護されてる娘』って、皮肉られてるわよ」
「全快したら、お母さんを慰労しないとダメよ」
「そうね。まだ先のことだけど・・・」
全治まで、まだまだかかる。私は少し目を伏せた。
そんな私の様子を見て、瑞希が言った。
「最近の話なんだけどさ、ウチの母親から、またケッサクなメールが届いたのよ」
瑞希の母といえば、デジカメ紛失のときといい、数々の逸話がある。
「なに、なに?」
私は身を乗り出した。

仕事中の瑞希の携帯にメールが届いた。
タイトルは「突然バーン!」とある。
こんな変なタイトルでメールを送ってくるのは、一人しかいない。
やっぱり・・・。母親からである。

「何がバーンなのよ?」
続きを読むと、
「突然バーン!という音とともに、テレビが映らなくなったの。
 明日はヤマダ電機にテレビを買いに行くから、予定をあけといて」
とある。

別に一緒に買い物に行かなくてもいいのに、と思ったが、両親だけでは心もとない。
上手い具合に勧められて、とんでもなくデカいテレビがリビングに鎮座するかもしれない。
それだけは避けたい。
とはいえ、これで地デジに対応のテレビに買い替えられる。
ついでに、DVDレコーダーも買ってもらっちゃおう。
瑞希は、ほくそ笑んだ。

仕事を終えて帰宅した瑞希を、待ってましたとばかりに、母が出迎えた。
「メール読んでくれた?」
「読んだわよ。突然バーン!なんて送ってくるの、お母さんしかいないもの」
「そうなのよ。ほんとバーン!って音とともに、映らなくなったのよ」

夕方、両親はNHKの「週間こどもニュース」を見ていた。
どうして「週間こどもニュース」を見ていたかというと、「ニュースの内容がわかりやすいから」だという。
瑞希も見たことはあるが、確かにわかりやすいことは確かである。
その日は、ペットボトルを使ったロケットの噴射実験をやっていた。
ロケットが噴射した瞬間、「バーン!」という音がして、縦にひとすじの閃光が映った。
そして画面は真っ暗に。
最初は実験映像なんだと思っていた。
しかし、いつまで経っても画面は真っ暗なまま。

「おかしいわねぇ」
「そうだな」
瑞希の両親は、テレビの前に座り眺めた。
だいたいこういう時、テレビ本体をたたいてみる。
何の変化もない。
今度は、いったん電源を切り、10秒ほどしてもう一度電源を入れてみる。
しかし、依然画面は真っ暗で、何も映らない。
「こわれたのよっ!」 母が叫ぶ。
「今日は土曜日だから、修理も頼めないぞ」 父がつぶやく。
そして、母は携帯を取りに行き、娘の瑞希へメールを送った。
「突然バーン!」と。

瑞希は半ば呆れながらも、最後まで事のいきさつを辛抱強く聞いた。
「まあ寿命だったのよ。そろそろ買い替え時だし」と、ブラウン管のテレビに目を遣った。
「そうよね。やっぱり次は液晶テレビよね。地デジよねぇ」
母の嬉しそうな顔を見て、瑞希はちょっとイヤな予感がした。

翌日の日曜日。朝8時には起こされ、
「さあっ、行くわよ」
という母の号令とともに、父と瑞希はいざヤマダ電機に向かった。
開店と同時に店内に入ったので、店員すべてに笑顔で出迎えられた。
母はテレビ売り場へ直行し、父と瑞希が後を追う。
「いらっしゃいませ!」
若い男性が瑞希一家の対応をつとめることになった。
「カメヤマ工場よ」
「は?カメヤマ?・・・あ、シャープのアクオスですね?」
「そう、アクオス」
横で聞いている瑞希は恥かしくなる。
つまり、母はCMフレーズ「シャープ アクオス 亀山工場」と言いたいのだ。
すかさず男性店員は、
「このワイド42インチが人気ですよ」
とテレビを指す。

「42インチはデカイんじゃないの?」
瑞希が言うと、今度は父が横から
「パナソニックはどうだ?」
と口をはさんだ。
それからが大変だった。
三菱だ、ソニーだ、いややっぱりシャープだ、とテレビ売り場を何往復もさせられた。
迷うだけ迷って、最後はやはり母のひと言で決まる。
「カメヤマよ!」
だから、アクオスと言ってよ・・・。瑞希は心の中でつぶやいた。

「このさいだから、42にしましょうよ。液晶だから、案外小さいわよ。ね、瑞希!」
「そう・・・、お父さん?」
「そうだな・・・」
父はすでに疲れきっていて、どうでもいいようである。
瑞希もこれ以上反論する気にもなれない。
それよりDVDレコーダーである。
「お母さん、DVDレコーダーも買おうよ」
「あ、そうね。ヨン様のDVDを見ないといけないから。でも、ヨン様のビデオもあるわ。ビデオも見れるの?」
「それでしたら、お客様、ビデオデッキのついたDVDレコーダーがございます」
「それにしてちょうだい!」
母はえらく太っ腹になっている。

結局、シャープのアクオス42インチのテレビとビデオデッキ付DVDレコーダーを買うことになった。
母はウキウキ。瑞希は欲しかったDVDレコーダーが手に入ったから喜んでいる。
ひとり、父だけがうんざりした様子。それもそうだろう。完全に予算オーバーである。

しかし喜んだのもつかの間。
「お届けは月曜日になります」
男性店員のこのひと言がいけなかった。
「えーっ!今日じゃないの?」と、母。
「あいにく今日は日曜日でして、配送の手配が・・・」
「大河ドラマが見れないじゃないの!」と、瑞希。
ガクトファンの瑞希は、何がなんでも大河ドラマを見逃すわけにはいかない。
勿論、家には14インチくらいのテレビならある。
が、ガクトをそんな小さな画面で見るなんて・・・。
「友達の家で見る!」
瑞希はそう言うと、すぐさま友人にメールを送った。
「大河ドラマを見に行くから!」

瑞希は早めに夕食をすませ、さっさと友人宅へ出かけた。
勿論、ガクトを見るために。
両親はというと、食卓に14インチのテレビを置き、しんみりと大河ドラマを見た。
「明日になれば、カメヤマがくるから、今晩だけの辛抱よ」
母の言葉に、父も苦笑しながら頷く。
だから、アクオスだよ・・・。父の心の声である。

さて、月曜日の夜。
帰宅した瑞希は、真っ先にリビングへ向かった。
勿論、届いたテレビを見るためである。
リビングのドアを開けた瞬間、瑞希は目を丸くした。
デ、デカイ!
いくら液晶といえども、42インチはやはりデカすぎた。
後ろにあるピアノが完全に隠れて見えない。

「店内で見たときは、こんなに大きいとは思わなかったのにねぇ」
横で母がつぶやく。
だから、言わんこっちゃない。
ヤマダ電機の店内とウチのリビングじゃ、比較にならないだろう。
「まあ、すぐ慣れるわよ」
切り替えの早い母と違い、瑞希と父は見慣れるまで、しばらく時間がかかりそうである。

話し終えた瑞希は、ため息をついた。
「ほんと、ウチのお母さんはノーテンキなのよ。自宅のリビングに置いたらどうなるか、全然わかってなくて」
「瑞希の家のリビング、結構広かったじゃない。それでも大きいの?」
「そう!だから結局、模様替えしたのよっ」
「あらまあ。でも、DVDレコーダーも買ってもらったんだし」
「それはね」
瑞希はにんまり笑った。
「テレビが壊れなかったら、まず買うことなかったもの。なにせお母さんは機械オンチだから、どさくさまぎれに買っちゃった。欲しかったのよ~。DVDレコーダー。これでガクトをDVDで録画出来るわ」

嬉しそうな瑞希の横顔を見ながら、思う。
右肩の調子が良くなったら、瑞希の家へ遊びに行こう。
もちろん、「カメヤマ」見学に、である。

(2007年11月 「突然バーン!」 by とうのよりこ)

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