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エッセイ 「ひとりご飯」

「ひとりご飯」   とうのよりこ

「そろそろ人出も少なくなっただろうから、明日 生田さん(生田神社)へ初詣&ランチに
 行かない?」
瑞希からのお誘いメールが届いたのは1月4日のこと。
骨折した右肩もだいぶ良くなってきたとはいえ、三が日の初詣は避けていた。
あの人出のなか、肩がぶつからずに歩くのは至難の業だろうから。
もう初詣に行く人も少ないだろうと思い、「OK」メールを返信した。

そごう1Fで待ち合わせ、生田神社へブラブラ向かう。
歩きながら、瑞希に聞いた。
「私はともかく瑞希も初詣まだだったの?」
「楠公さん(湊川神社)へ行こうと思ったんだけど、遠目で表門を見たとたん、やめたの。
 あの中に入ったら、もみくちゃにされるって」
確かに初詣の人出は尋常ではない。
「だから法隆寺へ行ったの」
「なんで法隆寺なの?」
「・・・なんとなく。すいてたわよ~。で、仏閣はすんだから、今度は神社と思ってね」
「神社仏閣のどちらにも初詣って・・・。そんなに信心深かった?」
そう言うと、瑞希は肩をすくめた。

ともあれ、2人で生田神社へ向かった。
阪急三宮の北側は、夜ともなれば賑やかだが、昼間はほとんど飲食店も閉まっているから、
静かだ。
とは言っても、人出は多い。
瑞希は時々ワタシの肩を心配してくれ、そっと人をよけてくれる。
道路側を歩かないように気遣ってくれるところなど、なんだか彼氏のよう。
なんだか、ちょっと嬉しくなる。

生田神社へ着き、祭殿へ向かう。
深々と参拝し、1年の祈願をした。
「健康でありますように。病気やケガをしませんように。皆が幸せでありますように・・・」
お賽銭の割には多くを願ったかもしれない。
「おみくじ、ひく?」と瑞希に聞かれたが、首を横に振った。
「凶なんて出たら、ショックだもの」
ワタシは苦笑した。

裏門から出て、トア・ロードにあるカフェ「あげは」へ向かった。
会社の同僚から教えてもらった店だが、初めて入る店である。
店の前には、7人くらいのウェイティング。
やはり人気のあるようだ。
名前を書き、表で待つことにした。
「寒いね」「もうちょっとかな」「あの人たちが入ったから次よ」
「それにしても寒い」「これ以上待てない」
そう言ったとき、ようやく入店できた。
20分くらい待っていただろうか。

店のなかは案外広く、奥のカウンター席に落ち着いた。
ご飯は十穀米か玄米。
有機野菜を使った料理ばかりで、お正月料理でもたれた胃にはちょうどよさそうである。
お昼の定食とデザートに豆乳プリンをオーダした。

料理がくるまで、おしゃべり。
「お正月はゴルフ行かないからヒマだったんじゃないの?」
瑞希にそう聞かれて、私は苦笑した。
「元旦は甥っ子達がきたから外食。あとは夜中までDVD三昧ってとこ。でもバーゲンは行ったよ」
「私もバーゲン行った。似たようなお正月だね」

やがて料理が運ばれてきた。
全体的に薄味だ。でも大根によく味がしみているし美味しい。
初めて十穀米を食べたが、案外美味しかった。
デザートも食べ終わり、お茶を飲みながら、ほっとひと息つく。

「お昼はどうしてるの?」と瑞希に聞かれたので、
「会社の食堂で食べてるよ」と答えた。
「美味しいの?」
「うーん・・・。味より安さかな。でもプリンはおいしい!」
「プリン?」
「そう。80円の割にいけるの!でもね、最初ひとりで取りに行けなかったの」
「なんで?」
「なんか、取りに行くのが恥かしくて」
「・・・まさか、ひとりご飯、行けないヒトじゃないよね?」
「?」

そこから「ひとりご飯にいけるか?」という話になった。
つまり、ひとりで昼食や夕食がとれるか?ひとりで喫茶店に入れるか?
という話である。

「マクドなら行けるって言う子もいるんだけど、マクドのほうがかえって行きにくいわよね」
と、瑞希。
「ワタシ、ファーストフード好きだから、食べたくなったら入っちゃうよ」
「まわり高校生とか若者ばっかりじゃない」
「気にならない。それに仕事で出かけたとき、アポまで時間があるときなんか入るよ」
「ああ、そういう使い方もあるわね」

「喫茶店は中学生くらいから、ひとりで入ってたよ」
「中学生?」
瑞希とは大学からの友人なので、ワタシの中学生時代は知らない。
「おとなって感じで、ちょっと流行ってたの。ブラックとか注文してさ」
「ブラック?いまのアナタからじゃ想像つかない」
確かにそうだ。
いまのワタシときたら、コーヒーを飲むとき、砂糖もミルクもたっぷりすぎるほど入れる。
その様子をみて、瑞希はいつも気持ち悪がる。

「でね」と瑞希の話は続く。
「ひとり晩御飯がイヤだからって、デパ地下で買って帰るっていう子もいるけど、パックのまま
 食べるのは味気ないから、器にうつすでしょ?」
「ワタシ、パックのままでも平気だよ」
「え"ーっ?」瑞希はワタシの「パックのままでも平気」発言にえらく驚いた。
そんなに驚くことかい?
「だって、器にうつすと洗い物しなきゃいけないから、それが面倒くさいもん」と言うと、
「私は、その洗い物が面倒くさいから、外食して帰るのよ~」と瑞希。

「えっ?」とお互い顔を見合わせて、苦笑した。
パックのまま食べるにしても、外食するにしても、要は「洗い物が面倒くさい」と思うからには
変わりない。
ひとりだから、ついつい横着になってしまうのだ。

「でも」
「ん?」
「やっぱり、ひとりより二人で食べるほうが楽しいし、美味しいよね」
そうつぶやくと、瑞希は大きく頷いた。

(「ひとりご飯」by とうのよりこ 2008年2月)

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