ひと足早いクリスマス(7)
医者への願望。
祖母の実家は開業医だった。
私の曾お祖父ちゃんにあたる人は、とても気のいいお医者さんだったが、
お酒が大好きで、母によると、「酒で身上をつぶした」らしい。
「いつか家を再建する」
そう願いながらも、祖母が結婚した祖父は、鉄工所を経営していた。
教育熱心な祖母だったが、折りしも戦中戦後で、生きていくのがやっと。
医者どころではない。
「子供がダメなら、孫に賭けよう」
まずターゲットになったのは、兄。
真面目で勉強家の兄は、理系に進み、期待に応えるかに見えた。
が、しかし。
高校2年で、語学に目覚め、外語大へ。
見事に期待を裏切ってしまったのだ。
じゃあ、次は従姉。
彼女も優秀で、理系コースに進んだ。
ただ病弱だったこともあり、医者をする体力はないだろうと、薬学部へ
入学した。
「結婚相手が医者ならいいわね」
ところが、従姉は大学3回生で、工学部へ転部してしまった。
「どうも解剖が苦手で・・・」と、従姉。
それに、父親がエンジニアだったので、同じ道に進みたいと思ったらしい。
年齢順でいくと、次は私。
祖母は私を見て、ため息をついた。
「よりちゃんは、まず勉強せなね・・・」
私は理数系が苦手だった。
特に、数学の応用問題。
たとえば、「~だから、~である。ゆえに・・・」なら、
「どうして、~だから、~になるの?」と、そこで止まってしまう。
今なら、スパッと考えられるのだが、当時は理解できず、苦手意識が
先行した。
だから、私はハナから文系。
祖母が亡くなり、兄が結婚して、甥っ子が産まれた。
その2年後、従姉も男の子を出産した。
すると、母や伯母たちがこぞって言い出したのだ。
「誰かを医者にしよう」と。
まずは、甥っ子がターゲットになった。
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