「グリーンに恋して」(2)
「おはようございます。専務」
綾音はキャップを脱ぎ、会社と同じように挨拶した。
「高田のおじちゃま」
子供の頃、そう呼んでいた。
初めて会ったのは、日曜日の午後。
ピアノ教室から帰ると、
「お客様が来られているから、お行儀よくなさい」
と母に言われた。
応接間をのぞくと、父と高田がビールを飲んでいた。
綾音に気づいた父が
「おや、綾ちゃん」
と、手招きした。
そろりそろりと部屋に入り、父の傍らに行き、
「こんにちは」
と、小さな声で挨拶をした。
すると、高田はすっくと立ち上がり、ビックリするような大きな声で
「こんにちは!高田です!いつもお父さんにお世話になっています!」
そう言って、深々と頭を下げた。
綾音は、声も出ないくらい驚き、どうしたらよいのかわからず、ただ父の顔を見た。
「高田くん。そんな大きな声を出すから、綾ちゃんがビックリしてるじゃないか」
「これは失礼しました!」
「もう少し、音量を下げられないかね?」
「ははっ。声が大きいのは赤ん坊の頃からで。ははっ」
笑い声も大きい。
背も見上げるほど高く、手も足も大きく、綾音には大男のように見えた。
「今日はピアノかい?」
父が綾音に聞いた。
「うん・・・」
「今は何を習っているんだ?」
「バイエル」
「そうか。じゃ、ちょっと弾いてみて。高田くんにも聞いてもらおう」
高田は、ニコニコとうなづき、
「弾いてみてください!」と、また大声。
恥かしい。
多分、顔は真っ赤になっているはず。
でも、パパが「弾いてみて」と言ってるし・・・。
綾音は、ピアノの前に座り、鍵盤に両手を置いた。
(つづく)
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