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母のこと(75)

花見屋あられで、汐豆と海苔巻きを買い、母のもとへ。
喜ぶと思っていたら、
「この豆、小さいし、硬い」
「そう?  そうかな?」
確かにちょっと硬い気もするが、豆ってこんなもんじゃないの?

母は、なんだかんだと、いちゃもんをつける。

出る直前に、紅茶を作り、持って行き、
「熱いうちに飲んで」とすすめても、すぐには飲まず、さめてから飲み、
「ぬるいから、美味しくない」と文句を言う。
お菓子も、少しずつのほうが良いだろうと、小分けにすると、
「アンタはケチくさい」である。

だんだん面倒くさくなり、
「お父さんに電話しようか」と、話題を変える。
病院は、携帯電話禁止だが、個室なので、こそっとかけている。
「別に・・・。話すこともないもん」と、あまり乗り気ではない様子。
「そう?  お父さん、いっつもお母さんのことばっかり話してるよ」
「ほんと?」
少し表情が変わる。
「うん。お母さん、どうしてるかな?  元気かな?って」
「ほんまぁ?」
母に笑顔がもどる。
父の携帯へ電話し、「もしもし」と声が聞こえて、すぐ母に携帯を渡した。

「もしもし、私。 ・・・元気とちがう。今はよりこがいるから、元気になってる。・・・え?  汐豆と海苔巻き食べてる。汐豆は小さくて硬いねん。・・・え?  なんか美味しいものがほしい。・・・  お父さんにも来てほしい。・・・  うん、元気になっとかなアカンな。・・・  うん、ほなまたね」
話すこともない、なんて言っていたわりには、長電話である。
なんだかんだ言っていても、父は頼りになる夫なのだ。

しばらくして、院長がひょこっと顔を出した。
「こんにちは」
すると母。
「こんにちは。いつもお世話になってます」と丁寧に挨拶し、
「娘です」とワタシを紹介した。

いつもと違う母の態度に、院長もやや戸惑いながら、
「娘さんとは友達ですよ」と答えた。
内心、『アンタとワタシはいつ友達になったんだ?』 と怪訝に思いつつ、ワタシは笑みを浮かべた。

「具合はどうですか?」
「ええ、まあまあです」
「お顔の色も良いですし、少しふっくらされましたね」
「そうですか」
「元気になりましょうね」
「元気にならないとねぇ」
「がんばりましょうね。じゃあ、またね」

あまりにも母の機嫌が良かったので、
「やさしい、良い先生やわ」とほめるのかと思いきや、
母が放った言葉は、「あの先生、坊主(頭)やな」であった。
確かに特徴的な頭ではあるが・・・、
母が院長の頭が気になりながら話をしていたのかと思うと、おかしくなった。

「あの院長がお母さんの手術をしてくれたんよ。レントゲンを見せてもらったけど、骨と器具がキレイにくっついてたわよ」
「自分の腕が良いと自慢したいだけやろ」
これには、妙に納得してしまった。
確かに、医者というもの、自慢したがる。

夕食時になり、
「じゃあ、また来るね」と、病院をあとにした。
エレベーターに乗る前、母に手をふると、スプーンを持ちながら、振り返してくれた。

母は、もう家に帰れないと、わかっているのだろうか。

「どうして、『お父さーん、よりこー』って、言ってるの?」と聞くと、
訳を言わず、「言うときもある」と答えた。
「さびしいから?」
「さびしい・・・」

考えてみると、ときどき私も知らず知らずのうちに、「お母さん・・・」と呟くことがある。
私も、さびしいのである。

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