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母のこと(89)

10時前、病院から電話があった。
母が大荒れしているとので、なんとか来てもらえないか、と。
そう言われても、すぐ駆けつけることができるわけではない。
主治医によくよく頼み、電話を切った。

だが、約30分後、今度は父から電話。
病院から呼び出されて行ったものの、父の手に負えないという。
会議中だったので、あとで電話するからと、ひとまず切った。

母の認知症は、かなり進んでいるようだ。
いったん落ち着いても、また荒れる。
その繰り返しだ。
状況がわかっているからこそ、主治医に頼んだのだが、
まさか父まで呼び出されているとは・・・。
やむを得ず、午後半休をとり、病院へ向かった。
父には、家へ帰るように伝えておいた。

病院へ着くと、少し落ち着いたとのこと。
主治医と看護師さんに、
父は元気そうに見えても、視覚障碍者で、最近弱っていること、
ワタシは仕事があるので、そうそう病院の呼び出しに応じられないことを
説明した。
前日の疲れと睡眠不足で、かなりカリカリしていたと思う。

絶食中の母はすこぶる機嫌が悪かった。
「一番体調が悪かったときに死んでしまえばよかった。
生きているのがつらい。早く逝ってしまいたい」
普段ならお菓子で機嫌をとるところだが、それもかなわない。
ちょっと散歩をしようと、1Fの売店へ行った。
ほんの少しだが、ブラウスやパンツを売っている。
久しぶりに洋服を手に取り、見る母。

「お母さん、これどう?」
母の好きそうなブラウスを手に取った。
「うーん・・・、そうね・・・」
「安いし、これ買おうか?」
「うん」
とりあえず何でも良いから、買い物をすることで、ストレスを発散してもらおうと思った。

しかし、機嫌がなおったのも一瞬のこと。
今度はブラウスごときで、なぜ入院せなアカンのかと、ごねだした。
ワタシがいることで、帰宅願望が強くなるのだ。
突き放すように、病院を後にした。
エレベータに乗るワタシを見て、
「よりこー」と、母は叫んでいた。
つらいが、治療に専念してもらうためにも、辛抱してもらわないと・・・。

夜、叔母から電話があった。
病院へ寄ってくれたとのこと。
有難い。
「元気そうだったから、安心したわ。お父さんとよりちゃんが来たことも、
忘れとったよ。私が帰る、言うたら、ごねだしてねー。
ガマンしなさい、って帰ってきたわ」

やはり、母は忘れていた。
ついさっきのことも、すべて・・・。
そのうち・・・。
いや、考えないようにしよう・・・。

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