母のこと(117)
夕方、父と連れだって、母のところへ行った。
エレベータで上がると、なんだか騒がしい声が聞こえてくる。
きっとお母さんだ。
父が声をかけると、
「あ! お父さんが来てくれた!」
そして、ワタシの姿を見ると、
「よりちゃん! よりちゃん!」と、大興奮。
父が離れたところに座ると、
「お父さんの傍に行きたい!」
まるで恋人のようなはしゃぎぶりである。
車椅子を押して、居室へ行った。
ひさしぶりの親子3人水入らず、・・・と言いたいところだが、
部屋に入るなり、母のストレスが爆発する。
ひたすら父を責める母と、母の怒りを受けとめる父。
こんなやりとりだ。
「お父さん、なんでこんなとこに入れたん? 家に帰りたい!」
「お母さんの家はここやで。帰るとこ、ないで」
「え? ないの?」
「そうや」
「・・・。もう死んでしまいたい」
「そうか。死んでまうか?」
「死にたい!」
「食事もとらんと、薬も飲まんかったら、死ねるんとちがう?」
「薬を飲んだら、死ねるわ!」
「そんな薬あるかいな」
「ある!」
母のストレスが発散された頃合いを見はからって、
お土産のお菓子を並べる。
「お母さん、お父さんが買ってきてくれた、文明堂のみつ豆と、とよすのおかき食べる?」
「食べる」
「ヤクルトも買ってきたよ」
「うん・・・」
母は、お菓子を食べると、少し落ち着く。
ただし、母は食べ始めると、とまらなくなる。
食事量の加減もわからなくなっているので、
食べすぎると、また苦しいと言い出す。
いつもなら、
「もう、やめとき。苦しくなるよ」
と制止するのだが、今日は母の好きにさせた。
午前中にお葬式へ行ってきたからだろうか。
悔いのない人生を送ってほしい。
今の母にとって、食べることだけが楽しみである。
それなら、好きなものを食べたいだけ食べさせてやりたい。
そう思った。
お菓子を食べ終えると、身体をゆらし始めた。
「首が痛いの?」
「身体全体がだるい・・・」
「なでようか」
細い母の首と、曲がった背中をなでていくと、母はうっとりした表情になる。
気持ちが良いと、母は静かになり、手を休めると、また身体をゆらす。
週1回、数時間のことなら続けられるが、これが毎日ともなれば、本当にまいってしまうだろうな。
事実、在宅介護の頃は、「クタクタ」だった。
ふと昨日のニュースが頭をよぎった。
「介護疲れの次女、母を暴力で死なす」
60歳の次女が、87歳の母に日常的に暴力をふるい、
死なせてしまったという記事だった。
亡くなられたお母さんの体重は27キロ。
4月から寝たきりになっていて、トイレへ行かず漏らしたので、
イライラした、と書かれてあった。
どれほどの暴力だったかはわからない。
ただ・・・介護疲れで、心身ともに追いつめられ、
次第に心を病んでいく・・・。
その気持ちは、よくわかる。
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