小説

小説 「突然バーン!」

「突然バーン!」   とうの よりこ

「右肩の調子はどう?すこしは痛み、なくなった?」
右肩を骨折した私を心配して、瑞希からメールが届いた。
「ゴルフにも行けず、ヒマなの。お茶しようよ」と返信した。

待ち合せは、諏訪山の「フーケ庵」に決めた。
ここなら徒歩で行けるし、人通りの多い三宮や元町だと疲れるだろうという瑞希の配慮からである。
瑞希は「和梨のタルト」とミルクティ、私は「キャラメル・ラフランス」とカフェオレをオーダーした。

「ごめんね、こっちまで来てもらって」
「いいよ。市バスに乗るだけだし。仕事は?疲れるでしょ」
「うん、まあね。コルセットに縛られてるから」
服の隙間から、肩に装着したコルセットを見せた。
「あ、そういうの、着けてるんだ。へぇー」
「姿勢よくなりそうでしょ」
「ほんと。自分で着けられるの?」
「まさか。右手はまだ後ろにまわらないから、母に着けてもらってる。『介護保険料払ってる老人に介護されてる娘』って、皮肉られてるわよ」
「全快したら、お母さんを慰労しないとダメよ」
「そうね。まだ先のことだけど・・・」
全治まで、まだまだかかる。私は少し目を伏せた。
そんな私の様子を見て、瑞希が言った。
「最近の話なんだけどさ、ウチの母親から、またケッサクなメールが届いたのよ」
瑞希の母といえば、デジカメ紛失のときといい、数々の逸話がある。
「なに、なに?」
私は身を乗り出した。

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小説 「忘れ物にはご用心!」

「忘れ物にはご用心!」   とうの よりこ

 友人の瑞希から、「八ヶ岳のお土産があるよ」とメールが届いた。
 9月の三連休を利用して、瑞希は八ヶ岳へ旅行していた。とにかく暑さから逃れたい一心で、涼しいところへ出かけたのである。
 私は、モノと話の両方を期待して出かけた。
 瑞希との待ち合せは元町が多いのだが、この日は三宮のそごう1Fの商品券サロン前に1時半の約束にした。ちょうどゴルフスクールの日だったので、着替えて出かけると、そのくらいの時間になるからだ。
 「お昼食べた?」と瑞希が聞くので、「軽くね」と答えた。
 「じゃあ、お茶にしよっか」
 とはいうものの、三連休の日曜日だから、どこのカフェもいっぱいである。考えた末に、交通センタービルの2FにあるUCCカフェへ行ってみることにした。
 「ここがいっぱいなら、ほかのカフェは大抵いっぱいなのよ」とは、グルメ通の瑞希ならではの解説だ。幸い、席はあった。
 「やっぱり、UCCに来るとワッフルよね」と声をそろえ、二人して、「秋のおすすめ和風ワッフル」をオーダーした。栗と柿がそえられた、ちょっと甘めのワッフルである。

 お土産は「幸せを呼ぶ鳥 ルリビタキ」のチョコレート。中に入っている青いカードをデスクマットにはさんでおくと、結婚できるらしい。
 「これって年齢制限あるの?」 カードの解説を読みながら、瑞希に聞く。
 「ないんじゃない?」 瑞希も適当に答える。
 「ふーん、じゃあ、はさんでおこうかな」
 ちょうど、会社でデスクマットを使い始めていた。これまでデスクマットを使う機会もなく、使う気もなかった。使ってみての感想は・・・あっても無くてもどっちでもいい感じ。まだその利便性がよくわからない。もし、このカードで幸せになれたら、デスクマットは幸せを呼ぶカードをはさむために用意されたもの、ということになるけれど。

 「で、旅行はどうだった?」
 「寒かったし、お天気悪かったのよ」
 神戸は連日の猛暑だったから、うらやましいことである。
 「なんか面白いことあった?」 私は身を乗り出した。
 「面白いことねぇ・・・」 瑞希は頬杖をつきながら、考えた。
 「とんでもないことはあったよ。デジカメをなくしてさ~」
 「え?デジカメ?もどってきたの?」
 私の目が輝いたことを瑞希は見逃さない。じらすように「まあまあ、結果はお待ちなさいよ」と言った。
 「女3人で行ったんだけど、車中から写真はとってたの。観光して、お土産物屋さんに寄って、ホテルに着いたら、なくて。どこかで置き忘れたみたいなの」

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小説 「ドンペリと一輪のバラ」

「ドンペリと一輪のバラ」          とうのよりこ

 空にうかぶ白い雲が、ゆっくりと流れている。
 春の風が柔らかく、潮の香りをのせて、由布子の頬をかすめていく。
 この感じ、いつかどこかで感じたような・・・。

 由布子は不意に足をとめた。何かあたたかく大きなものに包まれていくような感覚。あれは、いつだったか、誰だったか。
 しかし、気を取り直して、また歩を進めた。今日は、クライアントのリゾートホテルとの大事な打合せがある。
 クライアントの営業部長から、新しい企画の広告を依頼したいと連絡があった。ほかに案件はいくつもかかえていたが、由布子は何をさておき、優先させた。このリゾートホテルは、由布子にとって、初めて契約にこぎつけた大事な顧客であるからだ。

 駐車場からホテルの正面玄関まで、何度も通った道。ベルボーイとは顔なじみである。軽く会釈をして、ロビーに入る。フロントで挨拶をし、営業部長への取次ぎを頼んだ。
 そう、いつもと同じ。何も変わらない。なのに、なぜだろう。少し胸がドキドキして、何か起こるような、そんな予感がする。

 由布子はエレベーターに乗り込み、事務所のある階のボタンを押した。すべるようにエレベーターは上がっていく。いつもなら、ぼんやりと外の光景に目を遣るのだが、今日は余裕がない。相変わらず、胸の鼓動が早い。
 応接室に通されて、営業部長を待った。おそらく1~2分待っただけだと思うのに、その間が異常に長く感じた。

 まもなく営業部長は、「やぁ、いつも突然ですまないね」と、現れた。彼の口癖である。
 そして、由布子の前に企画書を置いた。そこには、「ドンペリニヨンディナー」とタイトルがつけられていた。
 由布子は、思わず息を呑んだ。

 ドンペリニヨン・・・通称ドンペリ。シャンパンの王様。
 そして、由布子にとって特別な意味をもつ名前。

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小説 「間違えられた弟」

「間違えられた弟」   とうのよりこ

 「やっとクーリングオフ出来た」と、友人の瑞希からメールで報告があった。
 悪徳水道業者にひっかかったというのだが、事の真相を知りたい私は、すぐメールを返した。
 「良かったね。じゃあ、ごはん食べに行こうよ。話も聞きたいし」
 かくして、瑞希の武勇伝を期待して、待ち合わせ場所の大丸神戸店へ向かった。瑞希の職場から近いこともあり、大抵待ち合わせ場所は大丸を選ぶ。
 「いま着いた」とメールを送ると、「あと10分待って」とメールが返ってきた。
 「玄関のイスがいっぱいだから、『4℃』の前のソファに座ってるね」
 「了解!」

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小説 「オブリガード」

 「先生。オブリガード!」

 携帯電話から、いきなり飛び出した声。
 ちょうど、麻子がバス停へ向かうため、公園を通り抜けようとしていた時だった。携帯電話が鳴ったので、慌ててとった。が、木陰に入っていたためか、雑音がひどく、「もしもーし」と叫んでも、相手の声は聞き取れなかった。公園の中にあるベンチの前あたりで、ようやく声は鮮明になった。そして、聞こえてきたのが、「オブリガード」だった。

 麻子は、「はい?」と、すっとんきょうな声を出した。間違い電話かとも思った。だが、「先生」と呼ばれる以上、出張パソコン教室の生徒からなのだろう。声色から想像してみて、探るように、訊いた。
 「あの、前田さんですか?」
 すると、「はい、前田タイゾーです」と、弾んだ声が、はね返ってきた。

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なつかしの佳作 「手」

 ミーン、ミーン、ミーン・・・・・。

 蝉が、忙しそうに鳴き始めた。ひとつ鳴けば、負けじと、別の木に掴まった蝉が、鳴く。あちらこちらで、大
合唱である。
 『今日も暑いですよ、暑いですよ』
 奈津には、蝉がそう唄っているように聞こえた。嫌やな、と呟く彼女の表情は、憂鬱そのものだった。

 今日は、大阪の義母を訪ねる日である。朝から憂鬱なのは、暑さのせいばかりではない。むしろ大阪へ行かな
ければならないことの方が、原因だった。五年前、義母は家を出て、娘の元へと行った。夫が亡くなり、身軽になったこともある。

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なつかしの佳作 「夕焼け」

『夕焼け小焼けで日が暮れて、
 山のお寺の鐘が鳴る。
 お手々つないで皆帰ろ。
 烏が鳴くから帰りましょう』

 窓の外から、子供の可愛い歌声が聞こえてきた。その声に誘われて、麻子は西の空を仰ぎ見た。キャンバスに真っ赤な絵の具を広げたような空であった。
 家へ帰りたいと、麻子は不意に思った。今すぐにでも、この殺風景な病室を出て行きたい衝動にかられた。明
日になれば、検査も全て終了し、帰宅できるにもかかわらずである。

 子供の頃、麻子もあんなふうに歌いながら、家路を急いだ。胸をワクワクさせながら、玄関の戸を開ける。「
ただいまー!」。お母さんが「お帰り」と出迎えてくれる。卓袱台には、真心こめて作ってくれた夕食が並んでいた。

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なつかしの佳作 「ひかり」

  ビルの狭間からふわっと光の海が広がっていく。
 「きっとそう、あそこに違いない」。
 加奈子は病室の窓に顔をこすりつけるようにして、光の方を見つめた。
 
 一九九五年十二月十五日午後六時、神戸ルミナリエが初めて点灯した瞬間のことである。震災によって傷ついた人々の心を、そして街を照らし甦らせた神秘の光。そのポスターを目にした時から、加奈子はどうしても見に行きたいと思った。夫にせがんだ。主治医にも懇願した。たとえ僅かな時間でも良いから、外出させてほしいと。だが、許可は下りなかった。「まだ外出は無理です。もう少し体力の回復を待たないと」。主治医は眉をひそめた。加奈子は何も言い返せなかった。主治医の言葉は絶対だ。従うしかない。

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